医学部に行くというリスク
医師になりたいと明確に思ったのは中学生の頃でした。
田舎で育った私は、高校の選択肢もそれほど多くなく、
あまり深く考えず近くの進学校へ入学。
文系も理系もごちゃ混ぜのクラスだったけど、今となってはいろんな友達ができて
とても良かったと思います。
その時親友に言われた言葉は、それから10年以上経っても鮮明に覚えています。
「医学部に行くと医者にしかなれない。僕にはそれがリスキーすぎる」
その頃の私は、
「医者になりたいんだからそれでいいじゃん。それってリスク?」
と思っていました。
医学部に入ると、6年間ほぼ同じメンバーで過ごすことが多いです。
そのメンバーが全員同じ職業=医師を目指していることになります。
細かく言えば、科が違ったり基礎や公衆衛生などを目指している人もいるけど、
それでも2年間の初期臨床研修は行うので就職活動(マッチング)は全員共通です。
当時の私は特に疑問に思うことはなかったけど、
今思えば一般的に見て非常に特殊な環境下であると思います。
当然友達も先輩も後輩もみんな医者。
私の周りはほとんどそのまま臨床医になり、今もそれぞれの道で奮闘しています。
進学前、自分に医師の適性があるかどうかについてあまり深く考える機会は正直ない。
指導してくれる先生も医師ではないし。
医学生は家庭教師や塾講師のバイトに多いので、
話を聞く機会は得られるかもしれないが、彼らもまだ医師ではないのです。
というか我々ですら、今医学部志望の高校生に会ったとして、
包み隠さず医師という仕事の長所短所を語ることができるかは疑問ですが。
医学部に入るということはそれなりの受験勉強をしてきた経験がある学生たちなので、
そのまま試験漬けのカリキュラムにのって、なんとなく卒業までたどり着き、
なんとなく国家試験も通ることはできると思います。
もちろんそれなりの勉強は必要なので、
医学に興味を持てない場合ドロップアウトする人もいますが。
でも、ほとんどの人が働き始めてから仕事に向き合い、
初めてその適性有無について向き合うことになると思います。
他の仕事だって同じかもしれないけど。
が、医師という仕事は忙しさや給与など、病院ごとに差はあるかもしれないけど、
医師という仕事自体を変わるのは正直なかなか難しい。
いろいろ理由はあると思うが、特に次の理由が考えられます。
もちろん当てはまらない人もいるとは思いますが、あくまで一般例として。
①新人としてはイマイチ使いづらい人材になってしまう
医師というのは基本的には自分で決定して指示を出す、チーム医療のリーダー的存在。
たとえ研修医であったとしても、リーダーのアシスタント的存在であって、
指示を受ける側ではなく出す側なのです。
(実情そうでないことは多々あるけど)
接遇を教わらず、学生の頃から態度が悪くても注意されることなく育ってきてしまっているため、
一般的な社会人に備わっている(と思われる)謙虚さはほとんどの医師にはないと思います。
②中途半端に高収入
医師の中での転職では給与は問わない人もたくさんいるけど、
それはあくまである水準以上ではあるだろうという暗黙の了解があるから。
(彼らから見て)あまりに低い給料であった場合、そもそも選択肢から消してしまっている。
一方、それ以外のスキルや経験には乏しいのが現実。
結局は医師という仕事からは離れられないことが多い。
医学部に進学するというのは一生医師をすることに等しく、
なかなかのリスクを伴うのです。
彼がそこまで考えて言ったのかはわからないけど、なかなか深い言葉だなと
この歳になってから思い出すことが多いです。
ちなみにその親友は文系で大学を卒業した後理転して大学院へ進学しました。
今はその道を極め海外で活躍しています。
かくいう私も、働き方について最近よく考えるものの、
やはり医師という仕事を完全にやめるという選択肢はないです。
医師という仕事+αで考えている今日この頃。
形や言葉にするにはもう少し時間が必要そう。